~高齢者がしっかり食べられる食事の取り組み④~

 

誤嚥(ごえん)・脱水防止委員会では様々な分野の専門職が集まって日々ご利用者の食事について検討したり、意見を交換しています。

今回は、その委員会で活動している専門職のひとつ『言語聴覚士』の西村さんに、専門的な視点から見た食事改善の取り組みについてインタビューをしたいと思います。

 

前回の記事はこちらから!

美味しく食事を食べるお手伝い~高齢者がしっかり食べられる食事の取り組み③~

 

ハートちゃん(以下「ハ」):

「委員会の取り組み紹介の前に、言語聴覚士のお仕事にあまり馴染みがない方も多いと思うので、まず、どんなお仕事か聞いてもいいでしょうか?」

 

西村(以下「西」):

「言語聴覚士の仕事は、失語症や構音(こうおん)障害(発音・発声・呼吸に問題が出る症状)などの言語のリハビリがよく知られていますが、言語『聴覚』士という名前の通り、聴覚分野のサポートをしたり、高齢者の方だけでなく子どもの言語発達や言葉の遅れへの取り組み、他には高次機能障害や認知・注意機能に関するリハビリをしたり、幅広い分野で活躍している専門職なんですよ!」

 

ハ:「話したり、聞いたりする機能に関してサポートをするお仕事なんですね。

でも、「食事」とはどのような関係があるのでしょうか?」

 

西:「言語聴覚士の仕事は実はそれだけじゃなくて、話すことは、口を開けたり、喉を使ったりする食事動作に繋がっているので、食事の様子を見て、その方にあった食事形態をアドバイスしたり、食べやすくする工夫を考えたりすることも仕事のひとつ。

私自身は今、ご利用者の自宅へ訪問して、構音障害や嚥下についてのリハビリの他に、家での実際の食事場面を見ながら評価を行って、改善のアドバイスをしたり、ご家族への食事指導などをメインに仕事をしています。

誤嚥・脱水防止委員会にも参加して、ご入居者の食事をされている動画を見ながら改善できることはないか提案やアドバイスをしています。言語聴覚士の専門的な視点を活かして言語に関することだけでなく、食事改善のお手伝いもしているんですよ」

 

ハ:「なるほど!そうだったんですね。だから、誤嚥・脱水防止委員会では言語聴覚士の方も一緒にご利用者の食事改善について取り組まれているんですね!」

 

 

『言語聴覚士の視点』~食事形態について~

 

ハ:「前回の藤澤さんのお話では、委員会の中でご入居者が食事をされている動画を見ながら、姿勢、食器やいすなどの周りの環境、口腔環境など様々な視点でその方に合った改善方法を検討しているとのことだったのですが、西村さんが言語聴覚士として一番注目しているポイントはなんでしょうか?」

 

西:「一番注目している部分は、『食事の時の喉の動きや呼吸』です!

高齢者の食事シーンでよく見られるのがむせること。むせているか、いないのかをまず確認します。むせているということは気管に食べ物が間違って入ってしまっても入らないように適切に器官が働いているということなので、身体の機能面ではよいことと言えます。

 

 

ですが、むせ方によっては注意が必要なこともありますし、逆に食べ物が気管に入った時に適切に咳をすることができず、むせていないのに誤嚥をすることもあります。

どのようにむせているか、むせていなくても飲み込んだ時の呼吸音や喉の動き、首の角度、持病も踏まえたうえで、気づきにくい部分を私たち専門職の目線で確認しています」

 

ハ:「咳き込まずに静かに誤嚥をすることもあるんですね…!私だったら気づかないかもしれません…。なので、そこを専門職の方に見てもらえるなら安心です。

他に注目しているポイントはありますか?」

 

西:「他に注目しているポイントは2つ。1つは食事の形態です。

施設ではご入居者が食べやすいように一口大に切る、細かく刻む、ミキサーにかける、ペースト状にするなど料理の形を個別に段階分けしています。

 

↓一口大の食事

 

↓刻みの食事

 

誤嚥を防ぎ、栄養をとるだけなら食事はすべてゼリー状やペースト状のものが安全で飲み込みやすく合理的でしょう。

ですが、なぜそれをせず細かく段階分けをしているのかというと、できる限り、その方が今まで食べてきた食事と同じように食べられること、希望に沿った食事を大切にしているからです。

『食事は生きる楽しみ』。食事は味だけではなく、見た目、香り、食感も楽しい要素です。それらを損なわず、安全に美味しく食事をしていただけるように最大限サポートをしたいと思っています。

 

言語聴覚士からサポートできることは、その方が美味しく安全に食べられる食事形態を見極め、ご入居者の希望も聞きながら、最適な形態はどれなのかを検討すること。

人の身体は使わないとどんどん衰えていきます。ですから、ご入居者が自身の身体の機能を十分使いながら、無理なく食べられる形態を提案し、今ある機能を維持していけるといいですね。

 

 

ハ:「食事は食べやすいことだけがご入居者のためになるとは限らないのですね。とても奥深いです…。

まだまだお話を聞きたいところですが、少し長くなってきましたので今回のインタビューはここまで…。次回もどうぞお楽しみに」

 

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